(Ⅶ)にゃんこ亭の猫たち ①名前は大吉
白黒猫が抱っこしたことで、名前を決めることにした。
額のところが[人]のような模様だから、
「八」とか「大」とかの入る名前にしよう、と考えた。
八兵衛・・なんだか、おっちょこちょいの代名詞みたいだ。
ただ、ハチ、というのも悪くないかな。
ふと、庭の白黒猫に目をやる。
にゃんこ亭には、クロミちゃんに連れられてやってきたのだったが、
その前は、どんな人生ならぬ猫生をおくってきたのだろう。
山あり谷ありで、平坦な道のりではなかったはずだ。
そんなことを思い巡らすうちに、決めた!
【大吉】という名前に。
ドアを開けると、ゆっくりやってきた。
一度、抱っこして以来、わたしへの警戒心は無くなっているようだ。
「なでる」という行為も、今では、お茶の子だ。
「名前ね、ダイキチ、ってどうかな。
いいことがたくさんあるように、大吉。
これから、大吉くんってよんだら、きみの事だよ。
いい?・・呼ぶから、お返事してね」
この猫はこの間まで、さ迷っていた猫だから、
人語はまだ理解できないかもしれないな、と思いながら、
「大吉くん!」と呼んでみた。
にゃ~と、ごきげんなお返事。
『はーい』って感じ。
繰り返し呼び、そのたびに良いお返事なのだった。
ところが、大吉は数日後、姿を消した。
K子さんも、たびたび様子を見に来ていたので、
何事かを感じ取ったのかもしれない。
どこへ行ったものか、行方知れずになってしまった。
にゃんこ亭は、クロミちゃんが仕切るという、
かつての平穏さを取り戻していたが、
わたしは、どこか、気の抜けたような感じがしていた。
コメント