(Ⅶ)にゃんこ亭の猫たち ⑥惚れた弱み
クロミちゃんは、大吉を疎ましく思っている。
それは間違いなさそうだった。
物置の上に陣取り、端のほうにちんまり座る大吉を、
シャー!
火を噴いて追い詰めていって、庭に落とした。
体勢を整える間もあらばこそ・・。
大吉はそのままの格好で、だらしなく落下。
レンガで足を打って、怪我をする始末だった。
しばらく引きずって歩いていたくらいだ。
それなのに、大吉は怒らない。
ずっと以前、クロミはミケちゃんにも同じことをしたが、
まさか、自分より体格のいい男の子にまで、
そのような無体なことをしようとは、思いもよらなかった。
「クロミちゃん!」
その場を目撃したわたしの怒声にも、どこ吹く風。
『ふふん』そらとぼけている。
「あのね。クロミちゃん!どんどん悪くなるね!
ほら、眼つきも、すご~く悪くなってきたからね。
このへんで、心を改めないと、たいへんなことになるよ」
怒っても、なだめても、意地悪を止めようとしない。
そればかりか、ある日、大吉ハウスまで乗っ取った。
大吉は気弱く、外にいる。
『ボクなら、だいじょうぶです』
ケンカを繰り返している乱暴者なのに、
クロミちゃんには何もできない。いいなりだ。
したい放題させている。健気なものだ。
なにしろ大吉はクロミ姐さんが大好きなのだ。
惚れた弱み・・とでもいったらいいのか、
腕まくりして吹っ飛んで行く乱暴者の、もう一つの顔である。
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