(Ⅷ)にゃんこ亭の猫たち ③大吉のソウルフード
散歩している途中で、建築工事の現場を見つけた。
家を建てているようだった。
ちょうど、昼時に差し掛かっている時間で、
早お昼にしたのか、6人ぐらいの若者たちが、
車座になってお弁当を使っていた。
楽し気に、ときおり笑い声もはずんでいる。
なかの二人の若者の腕には、鮮やかな彫り物が見える。
藍、黒、朱の三色。みごとなものだ。
ひとりはモヒカンヘアーだ。
耳には、たくさんのピアス。
笑うたびに、陽ざしを受けてキラキラ光る。
わたしの眼には、なかなか強面のアニさんたちに見える。
もし、この若者たちが真正面から歩いてきたら、
わたしは、その日の運勢はハズレだと思ったろう。
踵を返そうとした、その時。
あれ?
若者たちの真ん中に、チンマリと座って、
まるで仲間のように笑っている猫がいる・・。
ときおり、話でもしているように小首を傾げる。
『うんうん!そだよね~♡』という感じ。
あの特徴あるシロクロは、うちの大吉じゃなかろうか。
・・間違いない。大吉だ!!
若者たちのひとりが、大吉にカニカマを差し出す。
うれしそうに、パクリ。
大事そうに、にちゃにちゃ噛んでいる
また別の若者も、「これも食うか」
カニカマと唐揚げを大吉の前においた。
『おいら、これがいっちすきなんだ。あんがと』
笑った顔のまま、パクつこうとした瞬間、
みつめるわたしと、大吉の目が合った。
『やべぇぇぇ!』
そういって、さっと顔をそむけた。
そむけても、食べるのはやめない。
大吉はカニカマが大好物だ。
ソウルフードといってもいい。
わたしは、この時、その謎がとけた。
さ迷って飢えていたときに、
お弁当のカニカマをもらっていたんだろう。
きっと、こんな若者たちに・・。
【ありがとう!ほんとうに、ありがとう!】
外見で判断するしか能のないわたしは、それを恥じつつ、
若者たちに遠くから深々とお辞儀をして帰って来たのだった。
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