(Ⅷ)にゃんこ亭の猫たち ⑨牙を折って帰った話 【その2】
その夜、牙の折れた大吉を見て、夫は驚いて目を剥いた。
「あ~ぁ・・いったい何やったんだかなぁ・・
痛くないのか?・・化膿したら大変じゃないか・・」
幸いなことに、化膿もせず、痛みも無いようすだった。
歯みがきだけは続けた。これは夫に任せた。
人さし指に装着する絹の歯ブラシに、
美味しい味のする歯磨き粉をつけて、コシコシ・・
そのおかげか、折れた歯はその後も、安定していた。
歯茎が腫れてくることも無かったし、
痛みがあって噛めない、などという事も無かった。
夫は人専門の歯科医だが、いよいよの時は、
つかの間、猫の歯医者に変身するつもりだったという。
しかし、猫の牙を抜歯するとなったら、全身麻酔になるだろう。
さて、どうしたものかと考えていたらしい。【コメント欄参照】
そういうことは回避できそうで、一安心だった。
~ ~ ~ ~ ~
わたしたちは、大吉の牙折れ事件の後で、
ハンサム猫の姿が見えないことに気づいた。
【(Ⅵ)にゃんこ亭の猫たち ⑤白黒猫あらわる】参照➡
【(Ⅵ)にゃんこ亭の猫たち ⑥二匹の男の子猫】参照➡
【(Ⅵ)にゃんこ亭の猫たち ⑦戻ったりはなれたり】参照➡
ハンサム猫は執拗に、家猫になった大吉を追いかけ追い詰めては、
傷を負わせる、ということを繰り返していた。
一週間ほど前にも、近所の家の二階ベランダで助けを求める大吉がいた。
木を伝って、ハンサム猫から逃げたものらしい。
しかし、敵もさるもの。
追いかけて行って、ベランダに入り、すさまじい唸りをあげていた。
そのお宅に上がらせていただき、保護した時、
大吉は哀れにも、しっぽを巻いていた。
惨敗である。
去勢してしまった大吉への負い目は、一生消えない。
・・わたしは詫び続けるしかないだろう。
そのハンサム猫の消息がパタリと途絶えた。
大吉が牙を折りながらも、超ご機嫌で帰宅したことを考えると、
壮絶な戦いの末に、勝利したのではないか・・。
・・これはわたしの想像でしかないけれど。
その後、ハンサム猫の姿を見かけたことはない。
コメント
歯科医の夫より
大吉くんが右の牙(犬歯・・猫ですけど)を根元から折って帰ってきた時は、ホントにビックリしました。痛がる様子がないのも不思議でしたね。人間の場合は、神経の処置をして差し歯にするのです。・・・猫の歯医者、やってできないことはなかろう・・・右にゴールドの牙を持った猫なんて、強そうでかっこいい・・・と妄想したのですが、よく考えれば、やっぱり猫ではねえ・・・無理ですね・・・経験も無いし・・・結局、抜歯しかないかなと迷っていたら、なんと、痛みも化膿もせずに、折れた犬歯の回りが軽い歯肉炎になっただけで平気の平左・・・猫の治癒力、スゴイ!