(Ⅸ)にゃんこ亭の猫たち ②散歩する猫 【その2】

猫と少年飼い猫
床屋さんにいったの?

(Ⅸ)にゃんこ亭の猫たち ②散歩する猫 【その2】

 

秋風が立つころの夕暮れの散歩は、

いつも何かの気配が漂い出すのだった。

昼の名残りをどこかに包み隠しながら、

だんだんと夕陰が伸びあがってくるような・・。

葉陰からも、草陰からも、

たくさんの影たちがゆらゆらと揺らめき立ち上がる。

いにしえ人が・・逢魔が時という言葉を残したのは、

こんな得体のしれない気配が、

そこかしこに漂っていたからだろう。

不穏な時刻だ。

こんな時、わたしは、うすら寒いような、

妙に落ち着かない気分になる。

 

突然!

「あれ?床屋さんに行ったの?」

小さな男の子のかん高い声がした。

魔物も退散しそうな、明るく澄んだ声だ。

 

その子は、散歩の途中のわたしたちの脇を、

ピューと走って過ぎたはずだった。

それなのに、わざわざ戻ってきて話しかけたのだ。

 

話しかけた相手は«大吉»だった。

自分に向けられた言葉だと分かったのか、

大吉もピタリと足を止めて、男の子を見上げた。

 

「床屋さんに行ったんだね。ぼくも、行ったんだよ」

男の子は、大吉の頭を指さして、もう一度いった。

床屋さん???

あ、そうか!ホントだ!!

大吉のヘアスタイルは、

サザエさん家のワカメちゃんそっくりなのだった。

わかめちゃんカット

ワカメちゃんカット

 

ぼくと、いっしょだね!という親しみの声。

その声は一瞬で、

影たちのしのび寄る夕刻の世界から、

こどもの紡ぐ物語の世界に連れて行ってくれた。

 

「そうなのよ。

ハサミでチョキチョキそろえたの。

お耳は切っちゃダメですよ、ってね」

猫の床屋

レオナール・フジタ「猫の床屋」絵葉書より(POLA MUSEUM OF ART)

 

不穏な影などに惑わされない、

かっちりと強い男の子は、

「バイバイ、またね!」

にっこりと笑って、また駆けだした。

 

もう、どこにも魔の気配は無かった。

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