(6)5匹の子猫 ④協力を申し出る (8月末)

庭猫 

(6)5匹の子猫 ④協力を申し出る (8月末)

 

「ぞうきん猫。ちょっと、おいで・・」

呼ぶと、ぞうきん猫が眠そうな顔をあげた。

くたびれているのだろう。

ぞうきん母さんの背後に5匹がピタリと集まる。

まるで砦をつくっているようだ。

『ママにひどいことしたら、

あたいたち、ゆるさないわよ』

そんな目つきで、わたしを見ている。

 

ぞうきん猫は、のっそりと歩いてきた。

かなり大儀そうな足取りだ。

 

「あのね、パン盗るの、やめなさい。

・・おばさんが、ごはんあげます。

もちろん、ぞうきん猫、アンタにもね。

子猫たちが、ひとり立ちするまで、

なんとか、協力しますから。ね、わかった?」

 

猫は長い間、人社会で生きているので、

人語は理解していると、わたしは考えている。

ぞうきん猫の眼を見つめて、

一語一語ゆっくり、はなしている。

真摯に向き合うまっすぐな気持ちは、

人であれ猫であれ犬であれ、伝わるはずだ。

わたしは真剣である。

 

ぞうきん猫も、一心にわたしを見つめいる。

三角の耳もしっかり、わたしに向いていた。

 

わたしは、子猫食堂をオープンした。

まかないのおばさんになろうが、

子猫たちは、わたしの動きを目で追い、

すぐに逃げ出す身構えは、くずさないのだった。

ぞうきん猫が、自由猫としての生き方を、

しっかりと躾け、教えていたからだろう。

 

(猫は、人とは脳や声帯や舌の形、顎の構造等が異なるので、

人語を話すことは難しいらしい。しかし、音を真似ることはできる。

この5匹の子猫たちの中には、後年、いくつかの単語を上手に真似る猫がいた。

頭も格別に良かったから、好奇心の強さと努力のたまもの、だと思う。

それは、その猫の章で)

コメント

  1. パル より:

    毎回楽しく読んでいます!

    写真がない時の絵も味があってとても好きです!
    文章と相乗してぐっときて、いつも
    見入ってしまいます。

    私は、若月としこさんの著書は6冊すべて読んでいますが、どの作品もその筆致に魅了されます。

    前向きで潔くて美しく、そこはかとないユーモアがあり、書きたいものへの愛情がにじみ出ている文章に、すぐに惹き込まれてしまうのです。

    そしてもうひとつ。
    それぞれの題材や迫り方は違っても、すべての作品に共通するのが、読み終えた時に心に満ちてくる感情です。

    若月さんの本を読むと、なぜか昔読んだ『オズの魔法使い』『赤毛のアン』『メアリー・ポピンズ』『秘密の花園』などが思い出されます。

    海外のこれらの作品も児童文学のジャンルに入っているようですが、その文章から香り立って伝わってくる感性と、読後の温かな満足感がとても似ているのです。

    若月さんは、日本の児童文学作家の中で、稀有な筆力の持ち主ではないかと、私は感じています。

    感性に優れ、構成もしっかりした若月さんの文章は、山形県立、東京都立の高校の、過去の入試問題にも採用されています。

    「猫使いの庭」を毎日楽しみにしながら、これまでに出版された作品もできるだけ多くの方に読んでもらいたい!という思いが強くなって、長々とコメントしてしまいました。 

    他の作品も読まないともったいないです! ぜひ、ご一読あれ!!

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