(8)にゃんこ亭の猫たち ⑧ニセマン (1996年)
いつ、どんなふうに登場させようかと、考えていた猫だった。
結論からいうと、マント嬢かと思っていたら、
似てはいるが別の猫で、でも、やっぱりぞうきん猫の身内だった
・・という、いわく因縁の猫なのだった・・。
【(4)マント嬢 参照】➡
偽物のマント・・が、ニセマンの名前の由来である。
さんざんな名前だと、本人ならぬ本猫は思うに違いない。
模様や、体の大きさは、マント嬢によく似ていた。
曲がり角で、ふっと、姿が消えたりしたときに、
眼に残るシルエットのそっくりなことは・・驚くほどだった。
「あ!マントさま!」
なんども、間違えて、追いかけた猫なのだ。
マント嬢の次の季節に生まれた、弟猫だと思っている。
とすると、96年当時は、5歳になろうかという頃。
男盛りのイケイケだ。まさに『おれさまの時代』を、
体を張って生きていた猫であった。
ニセマンだけを見れば、堂々と立派な猫である。
キリリとしたハンサム猫といってもいい。
しかし、マント嬢に似ているがために、
「微妙に残念!」という思いを、わたしにいだかせる。
自由な猫男子は、気性も荒く、目つきも鋭い。
ふらっと、旅に出ては、また舞い戻ってくる。
そのような時の姿ときたら、埃まみれ泥まみれ、
あちこち傷だらけ、見るも無残なボロボロのヨレヨレだ。
そして、庭にやって来る。
『おばさんよぅ。おいら、たいへんなんだよぅ』
乱暴なので、ニセマンのいる間は、他の猫たちは近づかない。
にゃんこ亭は、「猫来庭病院」に早変わりする。
栄養たっぷりの食餌を用意して、
その中に、抗生剤を耳かき一杯入れまぜる。
(獣医師から処方されたものである)
薬を飲んだことのない自由猫には、驚くほどの効き目だ。
2日もすれば、傷も癒えてくる。
体調の悪いときは神妙だが、少し元気になると、
食餌を差し出すわたしの手に爪を立てる。
たびたびそんな風だから、わたしだって気を抜かない。
右手には、分厚い台所用のミトンをはめて対応する。
さすがに、分厚くて、爪も通らない。
「どうよ!ふふん」って感じだが、敵もさるもの。
ミトンのない、むき出しの腕のほうに、グサリ!
鋭い爪を突き立てたことがあった。
わたしの左手が、思い切りよく、バコン!
ニセマンの大きな頭を引っぱたいていた。
『ちぇ、どつかれちゃったな』とか、
『よけそこなっちゃったな』という顔をする。
人なら、てへへ、と舌を出したり頭を掻いたりする時の顔。
シャー、と唸りそうなものだが、唸らない。
「バカ!」「痛い!」「もう、出てって!」
唸るのは、いつも、わたしの方で、唸りながら面倒をみた。
顔を見せなければ心配もし、顔を見れば、
「お、元気だったか・・」と安心したものだった。
・・ひとことでニセマンを紹介すると、
マント嬢だと思ったばかりに、とりつかれて、
[腐れ縁は離れず・・]という猫なのである。
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