(Ⅱ)にゃんこ亭の猫たち ③おにぎりごっこ
あるとき、わたしは、物置の上のクマくんと、
「おにぎりごっこ」をして遊んでいた。
クマくんの頭部全体を両手で包みこんで、
「おにぎり、おにぎり~」といいながら、
ぐりぐりもみもみする、という、ただそれだけの遊び。
黒い猫だから、さしあたり、
焼き海苔でぐるりと包んだ三角おにぎりというところ。
クマくんはこの遊びが好きらしい。
『うへうへへ。もういっぺん、やってよぅ』と、
わたしの腕に頭をこすりつけるようにして催促する。
で、また、ぐりぐりもみもみ「おにぎり~」となる。
『うへへ・・』と喜んでいたのに、
突然『やめろよー』と、わたしの手を払いのけた。
「あら、どうしたの?」あまりの変わりように驚きつつ、
あたりを見回すと、お隣の物置の下に獅子丸くんがいる。
顔は半分、物置に隠れている。
わたしから、自分が見えていないと思っているらしい。
クマくんを見上げながら『へっ!』という目をしている。
「これこれ。獅子丸くん。あっちに行ってなさい」
わたしの声に、『あれ、見えてたの?わかったよ』と出て行った。
庭から出て行く獅子丸の後ろ姿をしっかり確認して、
「おにぎり~」・・『うへへ』と遊んでいた。
また突然・・『やめろよー』。
物置には獅子丸くんが戻ってきていて、
案の定、顔を半分出して『へっ』といっている・・のだが、
その顔は、なんともいえない顔つきだった。
うらやましい気もちがにじみ出ている顔。
とくに目に、そのような表情があらわれている。
ときどき、人も、そんな顔をすることがあるから、
哺乳類に特有の表情なのかもしれない。
目は心の鏡(窓とも)というものね。
クマくんは、人気猫だ。
かわいがってくれる家が何軒もある。
心配してくれるМ氏というお父さんもいる。
猫ドア付きの家には、一緒に暮らす猫たちもいて、
その中には、大好きなクロミちゃんもいる。
獅子丸くんには、無いものばかりだ。
『にゃんこ亭のおばさんなんか、どうでもいいけど、
たまには、獅子丸くん、おにぎりごっこしようか、
って、いってほしいなぁ』なんて思ったとしても、
不思議ではないなぁと、ふと、わたしは考える。
獅子丸くんが、珍しく、物置の上にいる。
まわりには、だれもいない。
クロミちゃんも、ミケちゃんも、クマくんも。
今がチャンスだ。
「獅子丸くん、おにぎり、おにぎりしようか」
最初は、頭をもたげて、逃げ腰だったが、
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
そっと、そーっと頭に指一本だけ置く。
その指一本だけで、しずかにしずかに撫でて・・
だんだん、両手の指三本でほっぺをくりくりしてみる・・と、
「ほら、ね、だいじょうぶでしょ・・
おにぎり・・おにぎり・・とろろこぶの巻いたおにぎり・・」
くりくり・・だんだん、ぐりぐり・・ぐりぐり・・。
ずっと、オドオドして警戒しながらも、逃げなかった。
初おにぎりごっこ成功!
両手で包む、おにぎりにはならなかったけれど、
最初はこれで、じゅうぶんオーケー♡
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