(Ⅱ)にゃんこ亭の猫たち ⑦モモジという猫
この猫は、あまりに、他の猫をいじめるというので、
「ねぎや」の大将からも勘当されたという、いわくつきの猫だった。
【⑤ねぎ黒はとてもクール 参照】➡
その意地悪猫が、にゃんこ亭に姿を見せた。
ふーん。いじわるかぁ。どぉれ、どんな感じかな。
・・うーん、意地悪というよりは、
なるほど・・。
むしろ「ひねくれもの」とみるべきだろう。
目つきは、ひがむ気持ちが、そのまま形になった感じ。
どうして、こんなふうになったのだろう。
男の子猫は母猫から、無償の愛を受けて育つ、と聞いたことがある。
なぜなら、出て行かなければならない宿命にあるから。
母猫もそれを承知しているので、離れるまでの間、
一生分の愛情を、いっきに注いで、育てるらしい。
そんなふうに育つからか、にゃんこ亭に来た男の子猫たちは、
みんな、どこか、のほほんとした、のびやかさがあった。
さて、くだんのモモジは・・。
体は、うす汚れて、白い部分が灰色だ。
長いこと、毛づくろいもしていない様子だ。
ぼそぼそと、そそけだっていることからも見て取れる。
ニセマンだって、もっとみだしなみに気を付けている。
【(8)にゃんこ亭の猫たち⑧ニセマン 参照】➡
猫は余裕がないと毛づくろいしないらしいから、
よほど、追い詰められているのが伝わってくる。
モモジのような外猫の余裕とは、どんなものだろう?
一に、食べ物が足りている。
二は、外猫たちの共同体に受け入れられている。
三には、人の情けを受けられている。
モモジには、きっと、どれも当てはまらない。
「ねぎや」からさえ三下り半だというのだから、
「ないないずくし」も最たるものだろう。
それにしても不思議だ。
男の子猫はケンカをくり返す。
そのケンカは、いっぴきではできない。
必ず相手があるものなのに、
なぜモモジだけが勘当の憂き目にあったのだろう。
わたしから、カリカリとミルクをもらって、
ガツガツ食べたり飲んだりいるところに、
М氏宅の、タクちゃん登場。
【⑥タクちゃん 参照】➡
まだ1歳のタクちゃんは、怖いもの知らず。
モモジの素姓は、もちろん知らないし、
猫はみんな自分のように幸せだと思い込んでいる。
半年前の、さまよっていた記憶は、なくなっているようだ。
『そこ、どいてよぅ』と無邪気そのもの。
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モモジとタクちゃん
「あ、タクちゃん、その猫はそっとしておきなさい」
ところが、タクちゃんには通じない。
モモジの横腹にズン!と頭突。
1歳のわりに、固太りでがっしりしている。
どうなることか‥とハラハラ見ていると、
モモジは、『どくから、まっててくれよ』と、
しっぽを巻いて、低姿勢で移動した。
どこにも「意地悪猫」の片鱗は、うかがわれない。
あまりにもだれからも受け入れられないので、
突っ張り切れなくなって、心がしぼんでしまったのか・・。
・・かわいそうだな、という思いがわいてくる。
[可哀想だたぁ惚れたってことよ]
漱石先生の「三四郎」の一節が浮かんで、
・・いやいや、惚れたりなどは、ありませぬ!と思う。
ただ、穏やかな声をかけてあげるのは、こういう時だろう。
「モモジくん。おいで・・」
モモジは庭の隅のほうから、やぶにらみのまま、やってきた。
たしかに、いじけた顔つきだ。
でも、そっと言ってみる。
「モモジ。きみだってね、かわいいんだよ。
かわいいかわいい。とっても、かわいいよ」
『に・・』ほんの小さく、優し鳴きをした。
生まれたときの優し鳴き・・たぶん・・ね。
コメント
猫たちとの交流に、日々感動です。
この頃、猫さんたちの顔が
人の顔に見えてきました・・
ホントですね! 猫たちそれぞれに、人(猫)格がある・・・さすがよく観察しておられる。庭に来る猫たちにエサをあげるだけでなく、“楽しく”交流できるのは、「猫使い」としての特殊能力ではないかと思いました。続きを楽しみにしています。頑張ってください。