(Ⅴ)にゃんこ亭の猫たち ①迷子の子猫 (2000年 8月下旬)
その子猫は、買い物帰りのわたしの足元に、
ぶち当たるようにして寄ってきた。
歩道の低木の陰から、ふいに飛び出してきたのだった。
首輪をしているから、飼い猫だろうと、
そのまま通り過ぎたのだったが、
ちいさく鳴きながら、あとを付いてくる。
足を止めて、子猫に向き合ったのが〈いけなかった〉。
首輪は、子猫にさえ小さめのようだった。
きゅっーと、首を絞めつけている。
しかも、うす汚れた首輪だった。
さらによく見ると、子猫はやせて、手足ばかりが長い。
「あれ、きみ、ひとりぼっち?」
声までかけたのが〈なお、いけなかった〉。
・・・とりあえず、大急ぎで家に帰り、
カリカリを持って取って返した、のは、
・・〈かなり、いけなかった〉。
子猫は、カリカリを食べ終わっても、
わたしの家の前から、いっかな動こうとしない。
必死なまなざしを、わたしに向ける。
そして、ふり絞るように鳴くのだった。
「こまったなぁ・・」
玄関前で鳴かれるのには、ほんとうに困り果てた。
庭猫として庭に放そうと思ったものの、幼すぎる。
それに、クロミちゃんの反応が危ぶまれた。
決して頼んではいないけれども、今では、
にゃんこ亭の元締め、という位置づけになっている。
気にいらなければ、子猫にさえ、
どんな意地悪をするかもしれなかった。
第一、飼い主はいるはずだ。
なにしろ、首輪をしているのだから。
・・あれこれ考えてもしょうがない。
一時的に保護するだけなのだ、と自分に言い聞かせて、
ひとまず、抱き上げて、家に入れてしまった。
このことも〈はなはだしく、いけなかった〉。
娘にはアレルギーがあったが、なんとかなるだろう。
長く家に置くわけでもないのだ、と軽く考えた・・。
この自身の軽さに、長くさいなまれることになるのだが、
・・飢えたこんな小さな子猫を、
見ないふりの出来る人はいるだろうか・・。
М氏や猫好きの人たちに、迷子猫のことを知らせた。
三、四日前あたりから、さ迷っているという情報だった。
迷子猫ではなく、捨て猫ではないかと、誰もが口をそろえた。
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