(Ⅷ)にゃんこ亭の猫たち ⑥番外編 猫たちの老い
М氏宅の猫たちの足が、このところ、めっきりと遠のいていた。
大吉が飼い猫になったからばかりではない。
それぞれの猫の上にも、時が流れたということなのだった。
М氏宅は少し高台に建っている。
庭から車道に出る場合は、他所の庭を通ったりなどしながら、
低くなっている所まで出たほうが安全なのだが・・。
そこは、もともと跳躍が得意な猫のこと!
まだるっこしいことはいっさい省いて、
車道に面した3メートル近い垂直の壁を、一気に駆け下りる。
なかなかの荒業だけれど、難なくやってのけていた。
それも、音もなく、しなやかに。
そんなふうにして降りた後、いったん植え込みの中に入り込む。
しばらくじっとして様子を伺い、ちょっと首をのばす。
[右見て左見て]安全確認怠りなく、車道を渡る。
そして、涼しい顔をして、にゃんこ亭に来たものだった。
ある日のこと。
М氏宅の庭のフェンスから猫が顔をのぞかせている。
タクちゃんだ。
『どうしようかな・・』という雰囲気。
しげしげ壁を見下ろしているようだ。

高いなぁ・・・
どうしたのかな?と思って見ているわたしの視線に気づいた。
タクちゃんはふいにフェンスから体を乗り出し、
垂直の壁を駆け下りた・・と思った。
と、ザザザザザザ・・・・
壁から植え込みまで、転がるように落ちたのだった。
「タクちゃん!!」
駆け寄って植え込みをのぞいた。
それでも、しゃんと立ち上がって、
にゃ、と鳴いた。心細そうに。
『いまの、みてないよね・・』
タクちゃんは若猫だと思い込んでいた。
しかし、考えてみれば、すでに10歳になっていた。
クロミちゃんとミケちゃんは13歳なのだ・・。
あのしなやかな猫たちに、老いの陰を見る。
人よりも早いスピードで、猫の時は流れるという。
わたしの胸は、キーンと音を立てる。
コメント