(Ⅴ)にゃんこ亭の猫たち ⑦美猫なのに・・
ミケちゃんは三毛猫である。
両耳は黒。
鼻筋は白く通っている。
両目からほっぺにかけては、薄い茶色。
胸もとは輝くように白く、四本の脚も白い。
背中には程よく茶と黒を置き、しっぽは茶色という、
たいそう美しい三毛猫ぶりなのである。
江戸の昔、谷中は笠森稲荷にあったという水茶屋。
そこの看板娘〈お仙〉を、連想するほどである。
姉さんかぶりに、きりりと前掛けをしめた姿が、
たいそう評判を呼んだという茶屋娘である。
アイドルのはしりといってもいい。
その〈お仙〉を連想するというのに、
なぜだろう、ミケちゃんは、雄猫に「もてない」。
雄猫は、ほぼ全員、クロミちゃんのファンである。
人の目を引く器量よしのミケちゃんなのに、
いったい、どうして、そのような結果になるのだろう。
ミケちゃんは硬い。ゴツゴツしている。
背中に鉄板が入っているように感じるほど。
【(7)里帰り猫②ミケちゃん(三毛嬢)参照】➡
しっぽも硬くて、ゆらゆら感はない。
性格も、四角張っていそう・・。
〈お仙〉になって、お茶を運ぶとして、
しゃちほこ張って、ギクシャクと動くあまり、
どうしても、下駄を飛ばすとか、
すっ転んでしまうとか、悪い予感がする。
あるいは、ドンと勢いよく置いて、お茶をこぼしそうな・・。
毎朝、ミケちゃんとクロミちゃんは、物置の上にいる。
ミケちゃんは、わたしに気づくと、
チラリとみて、パカッと口を開ける。
一応あいさつしているつもりらしい。
声は出さず、いわゆる口パカ。
そして、スッと目をそらす。
恥ずかしがり屋という幕が、ひといきに下りた感じ。
クロミちゃんは、わたしに気づくや、
体全体を、きっちりとわたしに向ける。
そして、わたしの姿を追い、
目が合ったとたん、
細く澄んだ声で、ひと声、鳴く。
『ニィ――ッ♡』
こちらは、舞台の幕がジャジャーンと上がった感じだ。
・・う~ん。
この違いかもしれないなぁ・・。
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