(6)番外編 「にゃんこ亭(猫来庭)に来る猫たち」
わたしの庭の子猫食堂には、
【にゃんこ亭】という店名がありました。
時には宿屋にもなり、病院にもなりました。
その時は【猫来庭】と名乗りました。
発音は一緒で、{にゃんこてい}です。
看板こそ出していませんでしたが、
猫たちの口から口へと評判が広がったのか、
にゃんこ亭は、なかなかの繁盛ぶりでした。
当初は、あくまでも子猫限定のはずでした。
しかし、成長したぞうきん猫の娘たちが、
一緒の家に暮らす仲間猫を引き連れて、
毎日、「里帰り」するようになっていました。
そうなると、旅の途中の旅猫たちも、
里帰りの行列の最後尾に連なるようにして、
にゃんこ亭に立ち寄っていきました。
困惑しましたが、疲れて空腹な旅猫たちこそ、
「食と安全」という手助けが必要なようでした。
旅猫たちは全員、男子猫でしたから、
にゃんこ亭は、たまに「赤ちょうちん」のようでした。
「きょうのおすすめは、焼き鳥風カリカリですよ!」
「はい、縞猫さんはこっち。
黒猫さん、アナタは、こっちね。
ケンカする方は、出てってよ!」
当時のわたしは、カウンターの中で、チャキチャキと、
男子猫たちを仕切っているといったイメージでした。
にゃんこ亭に来訪した男子猫たちには、
忘れがたいエピソードがあります。
いよいよ旅立って行くときには、わたしに、必ず、
{あいさつ}をして、去って行くという事でした。
老いて、やがて死をむかえようという猫も・・です。
きちんと庭にお座りをして、
わたしを一心に見つめたまま、
高く高く、長く長く、鳴くのです。
それを、幾度か、くり返して、空を見上げ、
意を決したようにして走り去りました。
遠吠えに似た、独特な、胸に迫る鳴き方でした。
「にゃんこ亭にずっと居たらいいよ・・」
なんど、そのように声をかけたことでしょう。
そのときの、猫たちの、まなざし・・。
もの言いたげな・・何か問いたげな・・。
あのまなざしも、忘れることはできません。
一宿一飯の恩義ということなのでしょうか。
それとも、一期一会を知っていたのでしょうか・・。
旅猫たちは、長く留まっても半年ぐらいでしたが、
みんな、けなげな律儀猫たちでした。
・・思い出すと泣けてきます・・。
~ ~ ~ ~ ~
次回から、にゃんこ亭には、
毎日、里帰りするぞうきん猫の娘たちや、
旅猫など、新しい猫たちが登場してきます。
混み入るかと思いますので、新たな物語の前に、
にゃんこ亭を仕切る「里帰り猫」たちの、
ご紹介から始めたいと思っています。
どうぞ、変わりなく、よろしくお願いいたします。
コメント