第二部Ⅵ ⑧ミカのこと
今回は、聖マリアンナ医科大学の【初代勤務犬ミカちゃん】のことを書こうと思います。
というのも、2021年の今頃(12月7日)に、虹の橋を渡ったからです。
人なら三回忌ということになります。
いつも穏やかで優しい犬でした。
ミカの中には、人が入っているようだと、そんなことをみんなで感じていました。
入っている人(中の人と呼んでいました)は「おじさん」のイメージ。
ミカは、どっしりと落ち着いていたからでしょう。
私の感じる中の人は、本物の愛を持った聖職者。愛に満ちた方なので、全力投球です。
だから中の人は時々くたびれて、こっそり外に出てしまったのじゃないかという気配を感じることがありました。
そんな時にはミカもミカ自身に戻って、くつろいでいるようでした。
中の人がいるらしいというのも驚きでしたが、並外れて優しい「ミカのまなざし」が、印象深く心に残っています。
なんと言ったらいいか・・・私は、ミカのまなざしにノックアウトされてしまった!といった感じでしょうか。
ミカのまなざしは慈愛そのもの。
慈愛の中に深い悲しみもまじっている。
ミカはきっと何人もの人を見送っているだろう・・
その悲しみだろうか・・・
でも、犬は他者の死を悲しむのだろうか・・・
謎を探ろうとミカの瞳をじっとのぞき込んだこともある。
『ナンデショウカ?』
むしろ問いかけるように深く見つめ返したミカ。
カールした毛並みに埋もれる黒い瞳は限りなく静か。
その静かさに見つめられると、疑り深い自分が、
なんとも恥ずかしくなるのだった。
きっと、聖者とは、ミカのような人だろう。
いっしょに歩く。
秋の午後。
オレンジ色の日差しが長く伸びて、
病室や廊下に影をつくっている。
そろそろお仕事が終わる時刻だ。
ふと、ミカの歩みが止まる。
その視線の先には子どもがいる。
止まった足がリズミカルに動き、
だんだん駆け足になる。
「ミカ!!」
うれしそうな子どもの声。
『ゲンキソウネ。ヨカッタ』
聖者のまなざしで、ミカはそっと寄り添う。
お世話したことのある子どものことを、
ミカは決して忘れない。
どんなに長い年月が経とうとも・・・
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