(3)ぞうきん猫 ③幼さの残るころ (1991年 早春)

庭猫 

(3)ぞうきん猫 ③幼さの残るころ (1991年 早春)

 

ぞうきん猫は、掃除機をかけているわたしを、
濡れ縁の隅に陣取って、観察していることがあった。

「黒ずきんちゃん!」
呼んでも、反応しなかったが、ぞうきん猫よりは、
グリムやペローの「赤ずきんちゃん」をもじって、
「黒ずきんちゃん」んという名前にしてあげたかった。
・・しかし、時すでに遅し。

ぞうきん猫という名前は、かの猫はもちろんのこと、
まわりの猫好きの人たちにも、すっかり定着していた。
せめてものなぐさめは、ただの「ぞうきん」ではなく、
「ぞうきん猫」までが名前だったことか・・。

晩春から晩秋までの半年間、わたしは庭に出なかった。
なぜか?
わたしはカマキリが怖くてしかたなかったのだ。
もともと丘陵だったところを切り拓いて建てたマンションだから、
庭には、図鑑でしか見たことのないような、大カマキリが住んでいた。
こちらのほうが新参者なのだからしょうがないが、
そいつは、わたしを見かけると、斧をふりかざした。
洗濯物にまでくっついてきて、存在を主張する。
わたしはビビりまくり、大汗をかき、庭に出ることをやめた。
そんな庭は、外猫にとってはかっこうの隠れ場所だったろう。

ありがたいことに、ぞうきん猫はカマキリを餌として食べてくれた。
この発見には狂喜乱舞した。
やった!
しかし、敵もさるもの。
カマキリは、ぞうきん猫の見ている前では微動だもしないのだった。
猫は動くものだけに反応する。
動かないものは、基本的にはただの物らしい。
「ほら、あそこ、あそこにいるでしょ」
指さしても、わたしの指の先をクンクンするばかり。
それでも、ずいぶん、わたしを助けてくれた。

庭を提供するわたしと、カマキリを退治してくれるぞうきん猫。
ギブアンドテイクの関係が続いていた。

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