(Ⅶ)にゃんこ亭の猫たち ⑩大吉の病気 【その3】
大吉が退院するときに、薬も処方されていた。
抗生剤と肝機能改善薬の2種類である。
それぞれ、一日一錠服用させるように、とのことだった。
簡単に飲んでくれるものと思っていたが、
これがなかなか大変だった。
飲んだふりをして、歯の間から押し出したり、
舌の裏に隠して、プッ!と吐き飛ばしたりする。
・・どうしたらいいだろう・・。
言葉が通じないもどかしさ、というより、
むしろ、3歳くらいの[わんぱく小僧]を、
どうしたら懐柔できるか、という悩ましさに似ていた。
チーズに埋め込むのは、あえなく撃沈。
それほどチーズが好きではないらしい。
では、大好物のカニカマはどうか。
厚みがあるので、なんとか埋め込めたが、
縦に裂けるので、カニカマだけを上手に召し上がる。
もっとコンパクトにくるめるものは、ないだろうか?
いろいろ考えて、たどりついた。
[花かつお]である。
ただし、ふわふわしている割にシャリ感があるので、
包んでいるうちに、すぐに壊れてしまう。
一計を案じた。
広げた花かつおに、ご飯粒を糊状にしてのばす。
少し、湿り気を帯びるわけだから、壊れにくい。
そこに一粒、薬を入れてくるむ。
小さなおにぎりの出来上がり。
花かつおの香ばしさも残っているから、
大吉には、思いがけないおやつだったらしい。
冷蔵庫から花かつおを出す。
その音を聞きつけて、飛んでくる。
こちらも、[おいしいもの]を作っているようにして、
「待っててね~♡」と気を持たせるように言うのだった。
自宅療養の一週間が過ぎて、動物病院に連れて行った。
肝機能の数値は改善していた。獣医師も驚く回復ぶり。
「もう、外に放して大丈夫ですよ!」
ということで、いよいよ庭に出してみた。
ピュー!!
脱兎のごとく、垣根を越えて行ってしまった。
なんの逡巡もなく・・。さっさと・・。
初冬の夕日が、月桂樹の葉を染めていた。
もう、帰らないかもしれない・・。
そう思うと、気落ちするほどの寂しさにつつまれた。
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