第二部Ⅳ ⑦椅子カバーを作る
ちょっと大事にしている椅子がある。
ピッコロチェアといって、サイズが小さい。
こども用かと言えば、そうではない。
本来の用途は、
ちょっとした張り出し窓などのかたすみに、
小ぶりのコーヒーテーブルなどと一緒に、
置かれるものかもしれない。
むかし、ヨーロッパ家具の売り場で見つけて、
私は見るなり心奪われたのだった。
コンパクトなのにしっかりと作られていて、
なにより生地が良かった。
さて、先代猫の大吉は、
私が大事にしていることを知っていた。
だから、常には爪を出すことはなかった。
だが、カニカマが食べたいと鳴いたときに、
私に知らんぷりされたりすると、
・・きっと腹いせなのだろう、
ピッコロチェアの後ろに寝ころんで、
椅子の張地に、爪をかけるのだった。
パリ・・・カリ・・・かすかな音がした。
「ん?」
振りかえる私の眼と寝ころがっている大吉の眼が合う。
今まさに引っかけようとしている前足がピタリと止まる。
「今、音がしたよね?」
『・・え?どこで?』
猫も、しらばっくれる。
そしておもむろに顔を洗うふりなどした。
⚘~⚘~⚘~⚘~
凛もやっぱりそうなのだった。
大事にしているものを、猫は察知する。
そして、意に添わなかったり、
気にくわなかったりするときに、
パリ・・カリ・・と爪を立てる。
私は、ピッコロチェアを布で覆うことにした。
微妙な曲線を描いているので、
布を掛けたまま立体裁断をして、
手縫いで縫い合わせたのである。
その布はワゴンセールの中にあった。
一枚500円のコブラン織の布地を二枚。
猫、猫、猫の模様である。
凛は今では自分の椅子だと思っている。
コメント