(Ⅲ)にゃんこ亭の猫たち ①かわいい大作戦
クロミちゃん、ミケちゃん姉妹が、まだ子猫で、
にゃんこ亭に住んでいた頃のこと。
【(6)5匹の子猫 ①庭を引き継ぐ 参照】➡
ぞうきん母さんの知恵だろうか、
子猫たちは、歩道に出て、道行く人たちに、
存在をアピールしていることがあった。
飼い猫になるべく「可愛い姿のお披露目」だったと思う。
「かわいいわねぇ」「三毛猫、きれいねぇ」
「縞猫たちだって、みんなかわいいわ」
「・・あれ、もういっぴきいるわ。ほら、三毛猫のうしろに」
「あら、ほんとだ。目だたない猫ねぇ。地味っ!」
「黒茶色というのかしら?きれいな色じゃないわねぇ」
たいてい、こんな会話が聞こえたものだった。
地味だの、目立たないだのと言われ続けたせいか、
クロミちゃんは、自信なさげの、さえない猫になっていった。
実際はかわいいのに、いつも後ろに引っ込んでしまう。
わたしは、なんとかしてあげたいな、と思っていた。
それというのも、ある構図が見えたからだった。
・クロミちゃん=ぞうきん猫。
・ミケちゃん=ニッポちゃん。
それぞれの一生に差が出かねない、と感じた。
猫は、少女漫画のヒロインのように、顔中目だらけで、
そもそもが、かわいい顔をしているのだが、
一目見ただけで、はっきりと存在の分かる白猫と、
闇にまぎれてしまいがちの黒猫では、
おのずと、人受けに差が生じるのだろう。
そして、当然だけれど、
かわいいと言われ続けると、猫だって自信がつく。
性格さえも、明るくのびやかになっていく。
逆に、地味で目立たない、と言われ続ければ、
影の薄い猫に育っていくのだと思う。
クロミちゃんのような猫に自信をつけさせるには、
「その気にさせる」ことが必要ではないだろうか。
つまり『自分はかわいいのだ』とクロミちゃんが思い込むこと、
深層心理に働きかけることこそ大事だと感じた。
大袈裟と笑うなかれ。人も猫も同じである。
そこで、【かわいい大作戦】を始めたのだった。
しばらくして。
といっても2年は経っていたはずだと記憶しているが・・。
「おかしいだよね。アヒルの態度が、でかいんだよね、ここんとこ。
『わたし、かわいいのよ!』っていう感じでね・・。
ふふんっていうふうに、胸をはるんだよね。
おかしいっていうか、不思議っていうかさ。
いったい、どうなってるんだろうな・・」とМ氏が首をひねった。
アヒルとはクロミちゃんの本名である。
【(7)里帰り猫ご紹介 ①クロミちゃん 参照】➡
「あら、そりゃそうよ!彼女に自信をつけさせるために、
クロミちゃんは本当は、とってもかわいいのよ!って、
このところ毎朝、耳元で言い続けているのよ」とわたしは応えた。
「なるほど、それで、よめた!!」とМ氏は膝をたたいた。
ほらね!ことほど左様に、
「かわいい大作戦」は功を奏している。
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