第二部Ⅴ ③歯みがき習慣
大吉が牙を折って帰ったこともあって、➡
猫とはいえ、永久歯は大切にしないと、と、
凛には毎晩、歯みがきを欠かさなかった。
過去形なのは、
その習慣は5歳頃までで、今はできていないからだ。
何故できなくなったか、と言えば、
夕方になると、凛が落ち着かなくなったからだった。
コソコソ、ビクビク、オドオド、キョトキョト・・・
もともと神経質な猫だったけれど、
小さな物音にも大げさに飛び上るようになった。
しかも、歯みがきの時間が近づくと、
凛はどこかへ雲隠れするのだった。
小さな家だから、すぐに探せそうなものだが、
さにあらずで、どこに隠れているのか見当がつかなかった。
そして、こちらが諦めた頃に、姿を現す。
どんなところに隠れていたのか、というと、
わずか10㎝の高さしかないところに、
ぺたんと限りなく薄くなって入り込んでいたりした。
しかもそこは、私のデスクの足元だった。
あるいは、カーテンと一体となって、
いっさいの膨らみすら感じさせることなく、
身じろぎひとつせず潜んでいるのだった。
猫は液体である・・という文章を、
なにかで読んだ時、膝を打った記憶がある。
ともあれ、歯には良いかもしれない歯みがきは、
凛の毎日の生活を脅かし、
神経質な性格をさらに狭量にしてしまったのだった。
ものすごく反省した。
というわけで、我が家には今や、凛を脅かすものはない。
たぶん、ないと思う。
(凛に訊いてみないと分からないけど・・)
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