(3)ぞうきん猫 ⑤台風の中の避難 (1993年 夏)
八月も末の土曜日。大きな台風が関東を襲った。
この年は梅雨明けも遅く、天候は不順だった。
和室前の濡れ縁には、頑丈な段ボール箱が置いてあった。
その中に庭仕事用の植木ばさみや重いスチール製の工具箱を入れて重宝に使っていたが、
暴風にあおられても困るので、いよいよ箱をたたもうと障子を開けた。
「ねこだ!こねこ!さんびきも!」
娘の声がはずんだ。
段ボール箱と窓ガラスのわずか数センチの隙間に、
白黒の縞、茶トラ、真っ黒の三匹の子猫が、挟まったようになって眠っている。
障子が開いたことに驚いたのか、もぞもぞと動いた。
大きさは15センチくらい。
顔のわきには、ちいさな三角のお耳がみえる。
たまらないほどの愛らしさだ。
それにしても、いつ、ここに避難して来たのだろう。
連れてきたのは母猫のはずだから、近くにいるに違いなかった。
ともかく、そっと見守ることに決めた。
しばらくしてのぞくと、母猫が箱のそばにいる。
ぞうきん猫だった。
『ちょっとのあいだおねがいします』
三つ指ついて、かしこまっているみたいにお座りしているのだった。
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