(Ⅵ)にゃんこ亭の猫たち ⑤白黒猫あらわる
ハンサムくんから3か月くらい遅れて、雄の白黒猫もあらわれた。
白黒猫はハンサムくんとは、見た目からもずいぶん違った。
ハンサムくんがハイカラで紳士的な洋風猫であるとすれば、
白黒猫は、いかにも日本の猫という感じ。
『てやんでえ』といいながら、手のひらで鼻水をぬぐいそうだった。
江戸の浮世絵師[歌川国芳]描く猫の中に、きっと居るなといった雰囲気。
ちょっと見は、富士額の女の子のようで、見栄えが良かった。
しかし、ぜんたいにうす汚れていたうえに、なんだか臭かった。
きれい好きなはずの猫が[臭い]というのは、解せなかった。
木枯らしが吹き、季節は冬の装い。
白黒猫は、ますますうす汚れてきていた。
毛の間に、細かい茶色のものが混じっている。
においの原因はこれか、と思ったが、いったいなんだろう?
肩から肩甲骨にかけて、ニクニクとした筋肉がついている。
白いうえに短毛の猫なので、なだらかに盛り上がった筋肉が、
お日さまの光の中に、くっきりとした影をつくった。
娘は、そのニクニクした筋肉が「どうも気持ち悪い」という。
たしかに、他の猫には感じないような筋骨隆々の雰囲気があった。
その筋骨たくましい猫の、毛の中にまじる茶色いもの。
その正体が、あるとき判明した。
園芸を好む人たちが作っている腐葉土。それのようだった。
腐葉土は発酵する。温度も高くなる。
寒い夜は、その中で暖をとりながら眠っていたらしい。
「ひょっとして、頭、いいんじゃないの?」
「えー!あの猫が?・・信じられない」
わたしと娘のある日の会話である。
にゃんこ亭には何匹も猫がやってきたが、そんな猫は初めてだった。
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