(7)里帰り猫 ご紹介ページ ④茶トラ猫たちの場合
ぞうきん猫の5匹の子猫たちの中には、3匹の茶トラ猫がいた。
クロミちゃん、ミケちゃんと同様の経過をたどり、
やはり、М氏に捕獲され手術を受けた。
3匹の茶トラは、それぞれ、М氏により、
いっちゃん、にっちゃん、サンちゃんと命名された。
クロミちゃんミケちゃんとともにМ氏宅に留まったのは、
ひときわ大きな茶トラ猫のサンちゃんだけだった。
まだ子猫の時分、なにがあったのか、
ぞうきん猫の怒りをかい、一週間も、
そばに寄せてもらえなかった、あの子猫である。
【(6)5匹の子猫 ⑤叱られた子猫 参照】➡
サンちゃんは、М氏宅の飼い猫になってからは、
わたしの庭を訪れることは、一度もなかった。
いったい、なぜだったろう?
母猫は子育て中に、重大な決定をするのではないかと思う。
それは、「子猫のテリトリーを決める」ということ。
母猫が子育てするときの、あの「転宅」は、
子猫に世の中の危険を体験させる、という以外に、
実は、子猫のテリトリーを見きわめ、決定しながら、
転宅をくり返すのではないか、というのが、わたしの考え。
子猫はいずれ、母猫から、独立して暮らす。
テリトリーの範囲や、落ち着き先の良し悪しが、
子猫の生命を左右するとしたら、母猫としては、
これほどの重大な決定事項はないはずだろう。
ぞうきん猫は、子猫時代をわたしの庭で過ごしていた。
ふっと、いなくなっても、子育てする期間とか、
具合が悪い時などには、必ず戻って来ていた。
つまり、わたしの庭は、
母猫である、にゃんこちゃんが、
ぞうきん猫のために決めたテリトリーだった・・と思う。
だからこそ、何代にもわたる「ぞうきん猫の一族」と、
長い付き合いをしているわけなのだろう。
そのように考えると、ぞうきん猫が、
5匹の子猫たちのために決めたテリトリーは、
М氏宅とわたしの庭のほか、数軒はあったはずだ。
М氏宅の飼い猫になったとはいえ、
ぞうきん猫がサンちゃんのために決めたテリトリーは、
わたしの庭ではなかった、と言えそうである。
ほかの2匹の茶トラ猫たちも、そのように考えられる。
2匹はМ氏宅から、あっさりと姿を消した。
2匹のためにぞうきん猫が決めたテリトリーは、
М氏宅でも、わたしの庭でもなかったということだろう。
2匹の茶トラもそれを、しっかりと知っていたわけだ。
なにしろ、未練もなく消えたようだったから・・。
半年ぐらい過ぎた頃のこと。
明るい色の茶トラの猫が、
5歳くらいの男の子のあとを追いかけて、
わたしの前に、偶然に姿を見せたことがあった。
もうすぐ商店街に差しかかる道だった。
気づいた男の子が、
「ミケ、だめだよ。付いてきたら」そういった。
「この子の名前、ミケなの?」
・・茶トラ猫にミケだなんて。
そのネーミングに笑いながら、わたしは訊いたのだった。
「うん、ミケっての。ぼくんちの猫なんだよ」
ミケとよばれた茶トラ猫は、走り寄って来て、スリスリと、
わたしの足に頭を擦り付けて、あいさつしてくれた。
「あれ、めずらしいなぁ・・。
よその人に、ミケがこんなことするなんてさ」
男の子は、ミケを抱き上げて連れて行った。
あの、明るい色の茶トラ猫には、見覚えがあった・・。
梅雨の晴れ間の空が、心をいっぱいに満たした。
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