(Ⅷ)にゃんこ亭の猫たち ⑧牙を折って帰った話 【その1】
いつものように朝帰りだった。
・・ブンブンブンブン♡・・・
なんだか、すこぶるつきの良いご機嫌だ。
なにがあったか分からないけれど、
大吉のご機嫌が良かったら、わたしも嬉しいのだった。
「では、ぼっちゃま。お体を拭いて進ぜましょう」
大吉のご機嫌の良さにつられて、わたしもどこかウキウキしている。
2枚の濡れタオルで、ゴシゴシキュッキュッ、
顔からどんどん拭いていく。
「お、いい男っぷりでござんすねぇ!♡」
褒めちぎりながら、今度は乾いたタオルで拭いていった・・
・・のだが・・あれ??
「どこか、変な感じだなぁ??・・」
どこなのか分からないのだったが、
なんとなく締りの無い顔つきに思える。
首を傾げるわたしに、くだんの猫め!
ニカッと嗤った。堂々と!晴れ晴れと!
「あ!あ!あ!!牙がない!!
牙はどこやったの!!どうしたの!!」
唇をおし開けて見ると、右の牙が根元から折れていた。
わたしの頭の中ではクエスチョンマークが飛び交う。
??????
気が付くと、自問自答していた。
◯いつ折れたのか?
・・昨夜、出掛けるまではあったはず。
◯何故、折れたのか?
・・誰かにこん棒ででも殴られたのではないか。
・・逃げる弾みにコンクリートにぶち当たったとか。
◯痛みはないのか?
・・折れたのだから痛いはず。それなのに、有頂天なのはなぜか。
わたしはだんだん情けなくなった。
牙のない雄猫なんて、猫の風上にも置けないじゃないか!
この町の猫たちの間には、
その場を目撃したかのような、
牙を折ったバカ猫の話が飛び交うに違いない。
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