(8)にゃんこ亭の猫たち ⑤猫的礼儀 (1995年 秋)
「猫たちを見に来てください」
М氏宅から招待の電話をいただいた。
「ぜひぜひ」わたしは二つ返事で出かけた。
「おじゃましま~す♡」
猫たちがМ家のリビングに勢ぞろいしていて、
思い思いのかっこうで、くつろいでいた。
にゃんこちゃん。
クマくん。
クロミちゃん。
ミケちゃん。
サンちゃん。
わたしの姿を認めたとたん、あわてだした。
顔を見合わせ、目くばせする。
そして、こぞって、
寝たふりを決め込んだ。
そのくせ、上目遣いで、わたしをチラリと見る。
かなり、感じが悪い・・。
М氏宅には、リビングに、庭へ出る猫ドアがある。
クロミちゃんとミケちゃんが、
そこから、いかにも用事ありげに、
ついっと外へ出て行ってしまった。
遅れたら、たいへん!といわんばかりに、
クマくんとサンちゃんも続いた。
残ったのは、にゃんこちゃんだけ。
でも、お尻を向けて、わたしを抹殺している。
しばらくして、家に戻ると、
濡れ縁にクマくんがいた。
網戸を開けると、部屋に入ってきて、
頭をさかんにスリスリしてくる。
『さっきはごめんね、しらんぷりして』
クマくんの気もちが伝わってくる。
さて、翌日のことである。
エントランスのあたりに、ミケちゃんがいた。
わたしを認めると、走り寄ってきて、鳴いた。
ニャーニャー・・。
昨日のことだ、とピンときた。
「いいのよ、ミケちゃん。気にしないでね。
わたしなら、大丈夫よ。へいきへいき」
一晩中、気にしてくれてたのかな・・。
うぬぼれ屋のわたしはそう思った。
ニャーニャーニャー・・。
にじり寄り、さらに声を張り上げて鳴く。
顔は真剣。眼は必死である。
そのうえ、体中の毛が逆立っている。
・・どうやら、怒っているらしい。
美しい猫が怒ると、なかなかの迫力だ。
『あきれたわ!ひじょうしきね!
おどろいて、ことばも出なかったわ!
こんなしつれいなこと、これからはやめて!
わかった!?ほんとにいやんなっちゃうわ!
こんなこと、またやったら、ゆるさないからね!』
翻訳すると、きっとこう。
どうやら、「猫的礼儀」というべき、
礼儀作法が、猫たちにはあるらしい。
そして、わたしは、失礼にも、
猫的礼儀を踏みにじってしまった様子。
いろんな顔を持って生きている猫たちにとって、
どこの飼い猫か、なんていう詮索は、愚の骨頂なのだろう。
そんなことをするヤツは、
野暮中の野暮とか・・礼儀知らずとか。
つまりは、粋じゃない、というお叱りを受けたのだ。
おとなしいと思っていたミケちゃんから・・。
(やっぱり、ミケちゃんもタダモンじゃないわよ!)
「・・あら、ごめんなさいね。悪かったわ。
これからは、気を付けるわね・・ほんとに、ごめんねぇ」
無粋なわたしは、ひたすら、あやまった。
ミケちゃんの顔から険が消えた。
すっと、着ていた鎧を脱いだ感じ。
毛並みも、ふわんと、平常に戻り、
にっこり笑って、家に帰って行った。
ハアー!!
・・猫の礼儀って、難しい!!
※(人に育てられたクマくんに関しては、
猫的礼儀より、人的礼儀が適用されると考えられます)
コメント
毎回面白過ぎて、
個性的な俳優(猫優?)たちのドラマを観ているみたい(ΦωΦ)