(8)にゃんこ亭の猫たち ⑨獅子丸くん (1996年 春)
見かけない猫が庭に来た。
クリーム色と白色の猫なのだが、
長い旅暮らしだったのか、白い部分は灰色に汚れていた。
ひとことでいうと「バッチィ」猫。
そのバッチィ猫は、
顔や体の大きさを見ても、男の子だということが分かる。
クロミちゃんとミケちゃんから、
お墨付きをもらっているらしくて、
にゃんこ亭にも堂々とした様子でやって来る。
あまりにも、バッチィ猫だったり、粗暴だったりすると、
お嬢さん猫たちからは、総スカンを食うものだが・・。
食わないところを見ると、どうやら、ああ見えても、
レディファーストの紳士かもしれない。
観察していると、とりわけ、クロミちゃんの前では、
家来とか子分とかいう雰囲気。
『これ、ししまる!』『ははー。クロミさま』って感じ。
懸命な、いじらしさである。
獅子丸とは、また勇壮な名前であるが、
実は、そこら中に、臭い付けを振り撒きまくるので、
[獅子]は、オシッコのことである。
それでも、「獅子丸くん」と呼べば、
自分のことだと思うらしくて、お返事する。
この獅子丸くんは、たいそう、けなげな猫だ。
事故か、生まれつきかは分からないが、
右後ろ脚の甲の部分が、盛り上がっていて、
足指が欠損していた。
だから、両足の長さに差があって、
歩くときには、すこし体が左右に揺れた。
そんな足で、よく、旅をして来たものだ。
その困難さを想像するだけでも、
[よく頑張って生きてきたで賞!]
と、努力賞をあげたい猫である。
にゃんこ亭に来るくらいだから、獅子丸くんは、
М氏宅にも入りこんでいた。猫ドアがあるので、
外猫でも自由に出入りできるが、ここでも、
お嬢さん猫たちの加勢があったのかもしれない。
・・おもしろくないのは、クマくんである。
なにしろ、М氏宅のただ、いっぴきの男の子。
正真正銘の、跡取り猫息子である。
獅子丸は、「ぼくんち」に侵入してきた悪漢なわけだ。
にゃんこ亭でも、合戦をくりひろげたが、
М氏宅でも、ドン、バン、ギャ、ニャーと大騒ぎ。
「夜中にケンカするもんだから、寝ちゃいられないよ」
猫に大甘のМ氏さえも、ゲッソリするほどなのだった。
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