(Ⅵ)にゃんこ亭の猫たち ④ハンサム猫
ある日、ゴージャスな雄猫がクロミちゃんと一緒にやってきた。
ロングコートをまとった、ペルシャ猫風である。
飼い猫かと思ったほど、美しい猫ぶりだった。
クロミちゃんは、自分のモテモテぶりを、わたしに見せに来たと思う。
ハンサム猫には、別宅としての「にゃんこ亭」を自慢したかったのだろう。
ちょうど日曜日で、我が家では、夫も娘も在宅していた。
そこへ、しゃなしゃなと、ハンサム猫同伴で、やって来たのだった。
『おばぁ、クロミで~す。このかた、わたしの追っかけ』
とにかく、テンションがいつもより高い。
しゃなしゃなどころか、クネクネ猫になっている。
「あれ、見かけない猫!」
「超かわいい!ハンサムだね!」
「どこの子だろ。何て名前かな」
「名前は、ハンサムくん!決定です!」
「紳士的。お育ち良さそう!」
わたしたちの評価は満点だった。
しかも、視線はその猫だけにそそがれている。
クロミちゃんなんか、そこに居ない感じである。
【ハンサムくん】と即座に命名された猫は、
お行儀良くお座りして、わたしたちを見上げている。
そして、『どうぞ、よろしく』と自信たっぷりに微笑んだ。
突然!!!
横から、クロミが吹っ飛んで来て、
パンパンパン!!!
手(前足)が何本も見えるほどの早業で、
ハンサムくんに猫パンチを浴びせた。
『いい気になってんじゃないわよー!!!』
シャーーーー!!!!!
口からは毒の煙を吐いた・・と思うな。
クロミ、恐るべし!
ハンサムくんは、
『あ、ごめんなさい。クロミさん。ぼくとしたことが・・』
サッと、濡れ縁から下に降り、わたしたちから遠ざかった。
クロミちゃんは険しい顔をしたまま、わたしたちに向かい、
『に』に濁点が付いたような[だみ声]で、叫んだ。
『いまのは、なし!クロミが一番!』
(歌姫クロミの、初だみ声だった)
それからというもの、ハンサムくんは、
クロミのエスコートはするものの、庭の隅に控えて、
わたしたちの方には姿を見せないのだった。
コメント