(8)にゃんこ亭の猫たち  ④にゃんこちゃん再び (1995年 夏)

庭猫 
クロミとにゃんこちゃん

(8)にゃんこ亭の猫たち  ④にゃんこちゃん再び (1995年 夏)

 

ある日のこと。

クロミちゃんが物置の上ではなく、

庭の横のあたりに、ちんまりと座っていた。

珍しいことだった。

 

ふと見ると、茶トラ猫が一緒にいる。

サンちゃんかと思ったが、違うようだ。

もっと小さな猫で、ふっくらとして、丸い。

そして、とても整った顔をしている。

 

サッシを開けると、クロミちゃんが一歩前に出た。

そして小声で、ささやいた。

ニーィ・・

「おはよう・・ん?・・なあに」

ニニーン・・

また、ささやいた。

「どこのねこちゃんなの?」

わたしは、訊き返す。

 

・・通じないもどかしさだろうか、クロミちゃんは、

ついに、大きな声で、なにごとかを訴えだした。

ニャン、ニャゴ、ゴロゴロ、ニャイーン・・。

 

このクロミちゃんは、たいへん声が美しい。

わたしは【歌姫】と呼んで、高く評価している。

その歌姫が、さかんに歌い始めたと思ったので、

「ふんふん。いつも、きれいなお声ですねぇ・・」

ほめちぎったのだが、歌は止まない。

クロミちゃんの目は真剣である。

そのうち、ジャリっとした、だみ声も混じりだした。

 

歌ではないのか?・・なんだろう・・?

 

一心不乱に鳴くクロミちゃんとは対照的に、

茶トラ猫はおとなしくお座りしたまま、

じっと、わたしを見つめている。

深い緑の瞳の猫だ。

深海を思わせる緑の眼・・。

この眼には、かつて出会っている・・ような・・。

 

「あ!あ!わかった!

にゃんこちゃんじゃないの!

なつかしいねぇ。元気だったんだね!

よかった、よかった!安心したわよ!」

・・と、ここで、ハタと気づいた。

「そうか!にゃんこちゃんの家に居るのね!

それを伝えに、いっしょに来てくれたのね・・」

わたしは驚きながら応えた。

 

それにしても、この、わたしの鈍さときたら!

 

にゃんこちゃんが飼い猫になったことは、

数年前に聞いていた。そういえば、

そのときも、「おじさん」という人だった。

でも、まさか、М氏だったとは・・。

【(2)ゴットマザーは茶トラ猫  参照】

 

*格言その1

「猫はМ氏にたどり着く」

 

クロミちゃんはピタリと鳴き止んだ。

 

並みはずれて賢い猫は、

自分のおばあちゃんと暮らしていることを、

わたしに告げ、安心して帰って行ったのだった。

 

※(もちろん、ごほうびおやつ、さしあげました)

コメント

タイトルとURLをコピーしました