第二部Ⅴ ②梅雨がくると・・
先代猫の大吉は、
梅雨の晴れ間のゆうまぐれに、
『そろそろ、おさんぽのきせつじゃない?』
と、私たちを散歩に誘ったものだ。
ちょうど、いまぐらいの頃に・・➡
いっしょに歩いていると、
大吉のなわばりがよく分かった。
よく行く公園まで、我が家からは直線距離で150メートルくらい。
朝、オジを見送るバス停のあたりまでは100メートルくらい。
男の子だから、たまには遠征していたかもしれないが、
それでも、たいていは狭いところをなわばりにして、
ぐるぐると、へめぐって暮らしていたように思う。
その狭い中にはなわばりを共有する他の猫もいた。
散歩の途中、ふいに大吉の緊張する姿があった。
物陰からのぞく視線を感じるらしかった。
目を凝らすと闇の中に金色の眼が光った。
大吉は、鼻息荒く、得意気だった。
それでも、ケンカはしなかったので、
猫同士の暗黙のルールのようなものがあるのかもしれない。
人がいる前ではケンカはご法度、とかなんとか。
散歩のあとで、また出かけることがあって、
きっと、それは、
出くわした猫と一戦を交えるためだったろう。
意気揚々と威張って帰ることもあったし、
あちこち引っかき傷をこしらえて、
消沈して帰ることもあった。
~⚘~⚘~⚘~
この梅雨の時期になると、
湿り気の中に浮かび上がる、
夜目にもあざやかな大輪の紫陽花と、
大吉の歩く白い姿がよみがえる。
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