⚫最終章
③最悪の症状
猫の白血球数の正常値は、
5000/µℓ~19500/µℓである。
大吉の白血球は1700/µℓだった。
正常値の下限をはるかに下回っていた。
この数値の低さは、
免疫機能が正常にはたらかず感染症に罹りやすい、
ということを意味する。
大吉は、まだ若いころ、
猫免疫不全ウイルス(猫エイズ)に感染していた。
これまでは発症はしていなかったが、
この白血球の減少と高熱から考えて、
発症したのは、ほぼ間違いなかった。
大吉はずっと以前、ケンカで右の牙を折っていた。(Ⅷ⑧、⑨)
根元からポッキリと。
幸いなことに化膿もしなかったので、
そのまま様子見の状態が続いていたのだが、
顔の右側に異常があらわれた。
右の頬のあたりが、うっすらと黒ずんできたのだった。
白い毛並みの上からでも、それは分かった。
光のかげんと思いたかった。
右の眼はかすかに痙攣して、
涙のように目ヤニが浮いた。
下顎も大きく腫れ、そして、異臭のするよだれが流れた。
大吉のレントゲン写真を見て、
下顎骨の骨髄炎も疑われると夫が言った。
夫は歯科医なので、そのあたりの専門だった。
もう、助からないかもしれない、とも言った。
食欲はないけれど、
大好きな鱈のスープは飲んでくれるので、
鮮魚売り場で、生鱈を探し求めた。
病院からは高カロリー食も処方された。
点滴。解熱のための座薬。
もうなすすべはないのだろうか・・
まるで何かにとりつかれたように、
私は大吉の耳や足を静かにさすり続けた。
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