(Ⅱ)にゃんこ亭の猫たち ⑧ニッポちゃん
ぞうきん猫の姉妹猫で、まだ子猫時代の数か月を、
ぞうきん猫と一緒に、にゃんこ亭で過ごしていた。
【(3)ぞうきん猫(にゃんこちゃんの最初の娘) 参照】➡
スラリと脚の長い、美しい白茶まだらの猫だった。
江戸の浮世絵師、歌川国芳の描く猫の中に居そうな、
いかにも、楚々とした日本の猫といった風情。
ずんぐりとした洋猫風のぞうきん猫とは対照的だった。
近くのスーパーの入口に座って、通る人たちに可愛がられていたが、
いつのまにか飼い猫に納まっていた。
クロミちゃんミケちゃんには、実の「おばさん」にあたる。
【(6)5匹の子猫 ①庭を引き継ぐ 参照】➡
そのせいだろうか、まだ子猫たちが庭にいた頃には、
子猫たちを驚かさないように、身を低くして、
ゆっくりゆっくり通り過ぎて行ったのが印象的だった。
明るい性質の猫で、玄関前の夏椿の根元に座って、
道行く人によく声を掛けていた。
『これ、そこのかた。おはよう』というぐあい。
だから、ニッポちゃんを思い出すときには、
夏椿の散り敷く道に、鎮座している情景が浮かぶ。
気づかずに通り過ぎようとすると、
『ちょっとぉ、にゃんこ亭のおばさん!!
こんにちは。ここよ。ニッポです♡』
大きな声で、あいさつしてくれたものだった。
ある休日、わたしたちは家族で散歩していた。
アパートが数棟建っているあたりに差し掛かった時のこと。
一棟のアパート前に、ニッポちゃんと思われる猫の姿があった。
「あれ、あのこ、ニッポちゃんじゃないかな・・」
娘が首をかしげた。
「よく似てるねぇ・・」
猫はしらんぷりを決め込んでいる。
「どうみても・・ニッポちゃんだよ!」
近づいて、まじまじ顔を見る。
猫は迷惑そうに顔をそむけた。
と、そのとき、アパートのドアが開いて、
若い女の人が「チャッピー」と呼んだ。
『にゃーー♡』
猫は、弾むように中へ駆けこんだ。
「びっくりするくらい、そっくりだったのよ。
似た猫って、いるものなのねぇ」
ニッポちゃんの飼い主Tさんに話したところ、
「いや、きっと、それはニッポだわ。まちがいない。
最近、帰ってこない時があるから、おかしいと思ってたの。
帰ってきても、空腹じゃないってのが変でしょ。
なんですって・・チャッピーっていったかしら?
わかったわ!チャッピーね!・・ニッポめぇ」
その夜、Tさん宅では、ニッポちゃんと呼ぶあいまに、
「チャッピー」と呼んでみたそうである。
ついうっかり、お返事したそうな。
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数日後。
いつものように、夏椿の根元にニッポちゃんがいる。
「ニッポちゃん」『にゃー』
「にっぽちゃん」『にゃー』
「ニッポちゃん」『にゃー』
4回目に「チャッピー」と呼んだところ、
『にゃ・・ゥゥゥ』と眉間にシワをよせて、本当に困った顔をした。
ごめんね、ニッポちゃん。からかって。
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