(Ⅶ)にゃんこ亭の猫たち ⑤戦う猫
大吉が我が家の猫になったとはいっても、
それは、わたしたちの思い込みでしかないのだった。
束縛されることが嫌いな大吉にとっては、もっと大雑把で、
人恋しい時だけ、家の中に入りたい、というもののようだ。
だから、ほとんど、大吉ハウスに寝起きしている。
そして、外からお呼びがかかれば、腕まくりして吹っ飛んでいく。
[外からのお呼び]とはいかなるものかというと、
ケンカのお誘いの事なのだった。
この頃の覚え書きを見ると、三日にあげずケンカしている。
そして、怪我をしては、病院行き、というのがお決まりの筋書き。
しかし、どう考えても不思議で仕方がなかった。
新しい猫が来ると、必ず、大吉にお呼びがかかるのだ。
他の家にだって、雄猫はいくらも居たはずなのに。
新しく町に来る猫は、去勢前の2,3歳の若猫が多い。
新しい猫たちは、その町を仕切るボスに、
とりあえずは挨拶するのではないか、と推定する。
・・ニセマンの居なくなったこの町では、
だれが、挨拶される立場にいるのだろう。
【(8)にゃんこ亭の猫たち⑧ニセマン参照】➡
雄猫とは限らないのではなかろうか・・。
もしや、クロミちゃんかもしれない。
『大吉を懲らしめたら居続けを許す』とかなんとか。
まるで、江戸時代の地回りの親分みたいだけれど、
考えられないことではない。
・・クロミ姐さんか・・。
わたしが大吉を飼い猫に直したのが気にいらないのだ。
少し前には、玄関ドアの外の、一歩を踏み出すあたりに、
猫フンが一本、置いてあった。
逃げていくクロミちゃんの後ろ姿を目撃しているので、
これは、彼女のしわざに間違いない。
あいかわらず、にゃんこ亭には日参しているけれど、
クロミちゃんは、わたしにも怒っているわけだ。
大吉も、呼び出されれば、よせばいいのに必ず受けて立つ。
大吉の脳内劇場では、去勢前の強かった自分が活躍しているらしい。
どんなに怪我をしても、懲りない。
怪我イコール負け戦とは限らないものの、
動物病院では「またですか」と有名猫なのだった。
しまいには、獣医さんからさえも、
「このさい爪は切らないほうがいいですよ。
なんたって、戦う猫だから。大ちゃんは」
と言われる始末だった。
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