(Ⅳ)にゃんこ亭の猫たち ⑥ペンダントの話
💎その3『好みがあるの』
なにはともあれ、白い筒状のペンダントが出てきたわけだから、
物置の上に鎮座しているクロミちゃんの首に掛けた。
・・ものすごい形相で、ある動作をくり返す。
下の牙で、首のあたりを、幾度も幾度もこするのだ。
[ペンダントを、牙で外そうと必死になっている]
と、考えざるを得ない動作だ。
執拗に、くり返す。くり返す。くり返す・・。
とうとう、牙に引っかかって・・外れた!!
『プン!こんなもの!』ふてぶてしい顔つきだ。
「赤いビーズの花がお気に入りだったわけね・・」
猫に、はっきりとした好みがあるというのも、驚きだった。
「もうひとつ、お花を作ってくれないかしら」と娘に頼んだが、
大粒のビーズは「あれが、ぎりぎり最後だった」という。
それは困った。
なにか、替わりのものはないだろうか・・。
娘と二人で、キーホルダーの入っている引き出しを開けた。
キーホルダーはたくさんあったが、これ、というものがあるかどうか。
まだ、クロミちゃんのお怒りは、とけないらしい。
ものすごい形相で、わたしたちをにらんでいる。
「なかなかだね~」
「まいったよね~」
わたしたちは口々に言い合いながら、
なにか、クロミちゃんのお気に召すようなものはないか、
それこそ、引き出しをひっくり返して、探しているのだった。
いくつか候補を持っていったものの、
クロミ嬢は、口でくわえて物置の下に落とす。
気に入らない、という意思表示だ。
娘の大事にしていた西陣織の飾りも、ポイ!だった。
いったい、どんなものならOKをだすのか?
赤いビーズの花がお気に入りだったということは、
きっと、女の子っぽいものがお好みなのだろう。
それと、もしかしたら、大きさや重さも重要なのかもしれない。
鮮やかな西陣織の飾りにそっぽを向いたのは、
1センチ足らずの小ささで、軽いものだったからに違いない。
「これはどうかな?」娘の手に取ったものは、
親戚の女の子から、娘へのおみやげのキーホルダーだった。
直径3センチもある円形の飾りが付いている。
基本の色はピンクだが、光にあたると紫色になるという優れもの。
真ん中に、すみれの花模様が細い筆で入っている。
そのうえ、フローラルの香りがして、重みもある。
「気に入りそうね。でも、これ、いいの?」
「うん。しょうがない、クロミちゃんのためなら」といった。
とり憑かれているね、わたしたち親子は!クロミ猫に・・。
ピンクの円形の飾りをホルダーからはずして、
クロミちゃんに持っていくと、それを見たとたん、
パッと、大きく眼を見張った。
そして、瞬膜が一瞬、シュッと目を覆った。
『これよ!こんなのがいいの♡』
喜んだということが、なぜか、わたしたちには分かった。
「あー、これね!これがお好み!」
なるほどね!!
大きくて、重みがあって、いい香りで、
しかも、光でピンクから紫に色まで変化する!
だれも、持っていないもの!
ミケちゃんだって、持っていない。
クロミちゃんは物置から降りて、
庭の真ん中に立って、歌った。
歓喜の歌を!声高々と!うたい上げたのだった。
『グルゴロロ~ン、ゴロゴロニャ~ン』
ちょっと、文字で表すのは無理!!!
もう、すばらしい歌声💛
歌姫クロミの本領発揮なのだった。
・・参りました・・。
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