(Ⅶ)にゃんこ亭の猫たち ②大吉ハウス
名付けたとたん、姿を消した大吉は、
ひと月後、白い毛をグレーに染めて庭に戻って来た。
師走の風が、冷たく吹き付ける頃だった。
鼻のあたりを斜めに横切るように、引っかき傷がみえた。
別の土地で、縄張り争いを繰り広げていたらしい。
やっぱり、ただのケンカ大好き猫だろうか・・。
うんざりしたものの、そろそろ底冷えの寒さが襲ってくる。
名づけた責任もあって大吉ハウスを作ろうと思い立った。
段ボール箱に、筒状にした新聞紙を壁のように巡らし、
さらに、プチプチクッション(緩衝材)でぐるりと覆った。
それを別の二回り大きな段ボールの中にすっぽりと入れ、
デパートの包み紙できれいにくるんで完成した。
当時、CМしていた「外断熱」の頑丈なハウスの出来上がり!
中には古いボアシーツを敷き詰めて、入り口は分厚いカーテンを付けた。
当分はこれでいいはずだ。
もっと寒くなったら、カイロを入れてやろう。
わたしは、出来栄えに満足した。
大吉も気にいって、すぐにそのハウスの中に入り込んだ。
カーテンは閉じたり開けたり出来るように作ったが、
そこは猫だから、開けたら開けっ放し、
閉じるということは、しないだろうと思っていた。
ところが、大吉は、しっかりとカーテンを閉じるのだった。
猫の手が、かなり器用だということに、この時初めて気づいた。
大吉は、かつて、腐葉土の中に入り込んで、冬の寒さをしのいでいたことがある。
放浪の末に、あるとき偶然知ったことだろうと思っていたけれど、
どうやら、いろんな[猫知恵]をもっているらしい。
大吉ハウスのカーテンが閉じていれば、在宅。
開いていたら、留守。
わたしは、そのように単純に決め込んでいた。
ところが、そうではなかった。
早春の陽ざしがぽかぽか差し込む暖かい日には、
カーテンは全開して、中からピンクの鼻がのぞいていた。
そうかと思うと、寒風吹きすさぶ日や、雨の日には、
留守といえども、カーテンは閉じているのだった。
ケンカばかりでもなさそうで、大吉は、生きる知恵も十分持っていた。
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