(5)猫忍者 クロ ⑤クロの旅立ち (1994年6月)
夏が近づいたころ、庭からクロの姿が消えた。
パタリと来なくなったのだ。
おだやかな猫なので忘れていたが、
クロは、1歳になるイケメン猫なのだった。
考えられることは、ふたつ。
どこかのだれかの飼い猫になったか、
自分のテリトリーを拡張するために、旅に出たか・・。
わたしは猫アンテナを張り巡らした。
(周囲の猫好きに聞いて回るってことなのね)
【クロの特徴】
黒猫である。
肉球も黒い。
毛の感じは、つやつや、しっとり。
しっぽは、長くてまっすぐ。先にいくほど細い。
眼の色は、グリーン。光の加減で黄色く見える。
体つきは、筋肉質で、スラリとしている。
耳の形は、とんがった三角。
鳴き声はすこし甲高い。
性質は、おだやかでやさしい。
書き出したクロの特徴は、
はっきりしているようで、
実は、どれも、あいまいだ。
クロの毛ざわり、鳴き声は、
わたしの手や耳には残っているのだが、
もどかしいほど、誰にも伝わらないのだった。
三毛猫みたいに、模様でもあればなぁ・・。
「どこ行っちゃたんだろう」
じりじりしていた頃、
500メートルばかり離れた小高い空き地に、
クロとおぼしき黒猫がいたのだった。
「クロ!!」呼ぶと、
細い声で鳴きながら、走り寄ってきた。
高いトーンの鳴き声のあいまに、
ゴロゴロというやさしい音が混じる。
クロの鳴き声だ。
手に伝わる毛の感触、しぐさ、しっぽの形。
まちがいない!
懐かしそうに頭をすりつけてくる。
やせてはいない。よかった!
「おいでよ、庭に。待ってるから。ね・・」
クロの体中をなでまわしながら話しかけた。
それでもクロは戻って来なかった。
そのうち空き地からも姿を消した・・。
クロは賢くて、優しい猫だったから、
・・この町の『旅猫』にえらばれて、
猫王のお住まいになる猫ヶ嶽に、
はるばると旅立ったにちがいない・・。
(のちに本になる「旅猫物語」【参照】➡
の草稿は、この時期に出来上がった。
庭に来てくれた猫たちが、描かせてくれたのである)
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