(Ⅲ)にゃんこ亭の猫たち ④お通夜 (8月1日 夜)
その夜。
М氏宅には、大勢の人が集まった。
クマくんの死を伝え知って、駆け付けた人たちだった。
いい子だったと話しながら、どの人も泣いた。
こんなにも愛されて、その死を嘆く人たちが、
こんなにも大勢集まるなんて・・。
クマくんは良い猫生を全うしたんだと思う。
けれども、生きているクマくんに会いたかった。
クマくんだって、生きていたかったことだろう。
前の日の、あのモーターバイク!
確証はないが、あれに間違いない!と、心が叫ぶ。
あの危険な蛇行運転が、クマの命を縮めたのだ。
無理にでも、一緒に帰ろうと誘っていたら、
クマのことだもの、わたしと帰ったはずだ。
なぜ、あっさりと別れたのだろう。
じゅうぶん危険だと感じたから、
「気をつけて」とわざわざ言ったのではなかったか。
側溝の前で、『ni』とかすかに鳴いたクマくんの声が、
わたしの頭の中で、いつまでもくり返し聞こえている。
『ni』『ni』『ni』・・・・・
それにしても、
事故の目撃者がいない、ということが不思議だった。
夏の夕暮れ・・とはいえ、まだ明るかったのに・・。
クマくんのなきがらに、
「いったい、あの後、なにがあったの?」
問うても・・クマは答えない・・。
~ ~ ~ ~ ~
ガチャ!鍵の開く音がした。
続けてドアが開いた。
「あれ。どうしたの?」
М氏の声だ。出張から帰ったのだ。
「何があったの?いったい、どうしたの?」
たくさんの見慣れない靴が、М氏に異常を告げていた。
😿 😿 😿
翌日、クマくんは火葬された。
わたしは、赤いスプレーローズのブーケを供えた。
クマくんの漆黒の毛並みに、よく映える赤いバラ。
数日経ったころ。
近所の若い女性が言った。
「夜、仕事から帰ったときに、
玄関の植え込みに、黒い猫が眠っていた」と。
何時ごろだったかと問うと、「9時ごろ」という。
アニスに発見された時、若い女性の自宅から、
8メートルくらい離れた場所に、クマくんは、たおれていた。
車道を挟んではいるものの、М氏宅の庭が見える所に・・。
クマくんは、苦しい息をしながらも、
なんとかして、家に戻ろうとしたのではないだろうか。
リビングの灯りが、クマくんには見えたはずだ。
その灯りに見守られながら、旅立った、と思いたい。
クマくん。
きみは本当に逝ってしまったのか・・。
もう、きみには会えないのか・・。
きみの好きな夏の水遊びも、もうできない・・。
【(7)里帰り猫 ③黒猫のクマくん 参照】➡
ホースで描く水輪の中に、
きみは飛び込んで、
虹色に輝きながら、
・・逝ってしまった。
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