(3)ぞうきん猫 ⑦強く潔い母の姿
・・夕方、嘘のように陽が差し始めた。
荒れ狂っていた台風が過ぎ去ったのだ!
その夕日を背にうけて、ぞうきん猫がきちんと濡れ縁にお座りしていた。
ぞうきん猫の前には、グレーのねずみが横たわっている。
しっぽの先から鼻先まで、15センチくらいだろうか。
箱の間から三匹の子猫たちも出てきて、母猫のそばにいたが、
もう、じっとしているのにあきあきしたのだろう。
やんちゃそうな一匹の子猫が、ねずみにじゃれついた。
ねずみのちいさな片耳がちぎれた。
そのとたん、
パシッ!
ぞうきん猫のパンチが、じゃれた子猫を打った。
雨で洗われた山茶花の垣根が、夕日に光っている。
そのなかを、三匹の子猫を引きつれて、ぞうきん猫は出て行った。
黒い毛が夕日をあびて輝いていた。
その輝きは母としての威厳のようだった。
濡れ縁には、片耳のちぎれたねずみが置かれていた。
ちぎれた耳は、付いていた所にキチンと寄せてある。
「このねずみ、わたしたちへのお礼かな?」
娘が驚いたようにいった。
猫が飼い主に、おみやげを持って帰る話は聞き知ってはいたが、
まさか、お礼を置いていくなんて!
そればかりではなかった!
濡れ縁の下に見えていたはずの大ねずみの残骸は、
ヒゲ一本も残さずに、きれいさっぱりと無くなっていた。
「立つ猫、跡を濁さず」なのだった。
わたしは脱帽した。
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