(5)猫忍者 クロ ③ごちそう猫缶 (1994年4月)
毎日遊びに来てくれていたマント嬢のために、
「ごちそう猫缶」を用意していた。
ある日の夕方、その缶詰をクロのために開けた。
プルトップを引き上げたとたん、
クロの瞳孔がホワッっと大きく開いた。
そのあと、ブワッと全身の毛が立ち上がった。
お皿に開けるのを待ちかねたように、
ウグ、ウグ、ウグという声をあげながら、
食べる!食べる!食べる!
あっという間にたいらげて、
お皿は洗ったようにピカピカになった。
よほど、美味しかったのか、
横に置いた、からっぽの缶まで、
ザリザリとこそげるように舐めるのだった。
「そう、美味しかったの。
よかったなぁ!!
こんなに喜んでくれると、
用意しがいがあるってものよね」
・・猫たちとのふれあいで気づいたことがある。
それは、元自由猫が飼い猫になった場合、
飼い主に、気を遣っているらしいことだ。
その気遣いの最たるものが「食餌」。
どういうことかというと、
どうやら、飼い猫たる基本姿勢は、
「家での食餌が大切」ということのようだ。
だから、他所で用意しているものは、
拒否はしないが、たいらげない!
たとえ、美味しい「ごちそう猫缶」だとしても、
お腹がいっぱいにならない程度。
飼い主には、救われた恩義を感じているのかも・・。
マント嬢も、ふたくちくらい残して、
『じゃ、かえるわね』というのが常だった。
いかにも自由な若者猫の、
旺盛なクロの食欲は、
わたしには新鮮で、ただ嬉しかった。
(飼い猫の、もうひとつの基本姿勢は、帰る、ということ。
でも、これについては別の猫のときに・・)
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