(4)マント嬢 ⑧突然の別れ (1994年3月)

庭猫 

(4)マント嬢 ⑧突然の別れ (1994年3月)

 

3月末。

あんなに連日長く居続けていたのに、

ある日をさかいに、ぱたりと来なくなった。

路地にも、歩道にも、姿が見えない。

なにか異変があったに違いない。

 

やきもきして暮らしていたが、

今日という今日は家をお訪ねしよう。

飼い主とは面識がないけれど、

説明すれば分かってくれるはずだ。

 

朝9時ごろ。

わたしは、マント嬢の家の前まで行ってみた。

 

え?

まさか!

・・引っ越し?

窓にはカーテンもなく、すべての気配が消えている。

 

近所の人に訊いてみたところ、

一週間くらい前に引っ越して行ったという。

 

・・そんなぁ・・。

 

初めて出会った歩道を歩いて帰る道々、

涙がこみあげてきて、しかたがなかった。

ぽっかりと体のどこかに穴が開いたようだった。

・・あの美しいマント嬢には、もう会えないのだ。

・・娘も泣き出すだろう・・。

 

マント嬢がある時期から、我が家に長く居続けたのは、

引っ越しのゴタゴタから逃れてきていたのかもしれない・・。

 

唯一、心から良かったと思ったのは、

マント嬢は、その家族にとって、

無くてはならない猫なのだ!ということだった。

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