(Ⅱ)にゃんこ亭の猫たち ②【クロミちゃんの徳利カマ事件!】
その翌日のこと。
クロミちゃんが庭で呼んでいる。
ニャン、ゴロロロン、ニャニャーン、ミャン・・
さすがに歌姫。さまざまな声で、歌い鳴きする。
「は~い。まっててね~♡」
ドアを開けると、真正面にキチンと、お座りをしていた。
眼はわたしをジッと見上げて、そらさない。
胸を張って、おすまししている様子だ。
ものすごく誇らしげだし、満足げでもある。
まるで、後光がさしているようだ。
クロミちゃんの前には何かが置かれている。
緑色の・・なにか?
・・なんだろう???
庭に降りようとサンダルをはいた・・が、
緑色のものが、気にかかって、踏み出せない。
なんだか不穏な空気をまとっている、ような・・。
「・・ちょっと待ってね、クロミちゃん」
濡れ縁の上から、緑のものにジッと目を凝らす。
ん?・・あれは・・ひょっとして・・
カマキリじゃないの・・?
・・間違いない!
カマキリだ!!!
でも、なぜか胴体だけのように見える・・。
お酒を入れる「徳利」にそっくりの形だ。
カマキリがそんな姿になっているのも、
なにがなんだか、訳が分からない。
青ざめていくのが自分でも分かった。
でも、クロミちゃんは、
ふたたび、うれしそうに歌った。
『どうぞ~♡
これ、すきでしょ~♡
おいしいわよね~♡
わたしも、これ、すきよ~♡
でも、あげるわね~♡
えんりょなんてしないでね~♡
たべやすいようにしておいたわ~♡
いつも、おせわになってるもの~♡
これぐらいさせてよね~♡
ささやかだけど、おれいなのよ~♡』
クロミちゃんの意気揚々とした歌声に、
わたしは、やっと理解した!!
あの徳利の形のカマキリは【調理済み!】だってことに。
食べたときにイガイガと舌に触るような部分、
羽やら脚やら頭やら・・、
そんなところは、全部、外してある。
おいしいところだけを(たぶん)、
食べやすいように調理して持ってきたのだ。
魚なら、お刺身用の「さく」というところだろう。
お腹にタマゴを持った秋のカマキリは、
クロミちゃんにとって、えもいわれぬ美味しさらしい。
昨日、わたしと娘の騒ぎ立てる声を、歓声だと勘ちがいしたのだ。
つまり、わたしたちも、カマキリが大好物だと思い込んだらしい。
それにしても・・・。
猫が、プレゼントを持ってくるのは知っていたが、
「調理したもの」を持ってくるのだろうか???
わたしと娘は、しばし、シーンと顔を見合わせた。
信じられない思いの中で、
ぞうきん猫の「ネズミのお礼」を思い出していた。
【(3)ぞうきん猫 ⑦強く潔い母の姿 参照】➡
ぞうきん猫の娘なのだなぁ・・クロミちゃんは。
さすがだなぁと、ぞうきん猫の教育を思う。
なかなか動こうとしないわたしに、
『あら、みてたらたべにくい?じゃ、きえるわね。
どうぞ、ゆっくりめしあがってね~♡』
・・まるで矢の字の帯を結んだ御殿女中のように、
顔を隠して、斜めになりながら走り去った。
(わたしのいだく御殿女中のイメージ)
わたしたちは、この出来事を、
【クロミちゃんの徳利カマ事件】と呼んで、
しっかりと記憶したのだった。
※(徳利カマは地中深くに葬りました・・)
※(この、クロミちゃんのように、
調理済みのプレゼントを届ける猫をご存じの方。
どうぞ、ご一報ください。お待ちしています)
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