飼い猫

⚫最終章Ⅱ ⑧怒りの声かもしれない

⚫最終章Ⅱ  ⑧怒りの声かもしれない 大吉がいなくなって、 半年くらい経ったころのこと。 朝方に、大吉の大きな声で目覚めた。 のどを目いっぱいに広げて鳴く、あの大声。 目を覚ましても、鳴き続けている。 耳元でガンガン鳴り響いている。 「だい...
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⚫最終章Ⅱ ⑦終わりに

⚫最終章Ⅱ  ⑦終わりに 私たちの猫だった大吉を忘れはしない。 忘れないどころか、その存在は日に日に大きくなって、 家の中のお気に入りだった所などは、 もはや聖地のようでさえある。 他所の人の目には、 大吉はどうということのない猫だったろう...
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⚫最終章Ⅱ ⑥手形

⚫最終章Ⅱ  ⑥手形 大吉を見送ったセレモニーホールは、 規模の小さいところだったけれども、 家族として生きた動物たちに、 あたたかい心遣いをしてくれるところだった。 大吉を火葬をする前のこと。 係の人が、スタンプ台を手にやってきて、 「足...
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⚫最終章Ⅱ ⑤おきみやげ

⚫最終章Ⅱ  ⑤おきみやげ 大吉が逝って どんなに過ぎても 大吉のいない日々に 慣れることなどない 心の中には ぽっかりとした 空虚な穴があきどおし そんな日 ふとしたところに 大吉からのおきみやげ・・ 白く 弧を描く 三本のヒゲが・・
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⚫最終章Ⅱ ④名前

⚫最終章Ⅱ  ④名前 大吉 大ちゃん だっこちゃん ダコポン デコリン デコッチ デコちゃん デコ・・ どの名前で呼んでも、お返事した大吉。 あ~ん とか にゃ~ん とか にゃ とか ん~ とか ダとデは 自分のことだと思っていたみたい。 ...
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⚫最終章Ⅱ ③み仏の住む

⚫最終章Ⅱ  ③み仏の住む ポッカリ空いた眼窩には かつては 美しい エメラルドグリーンの瞳が もの問いたげに もの言いたげに じっと 私をみつめていたものだった ⚘~~⚘~~⚘~~⚘ セレモニーホールの職員は、 足の骨から順々に、 ひとつ...
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⚫最終章Ⅱ ②お葬式

⚫最終章Ⅱ  ②お葬式 ・8月12日 ・午後4時からセレモニー ・火葬 この日は休日ではないので、 私だけで大吉を見送ることになっていた。 ところが、昼早くに夫が帰宅。 大吉のことを知った他の歯科医やスタッフたちが、 この日の夫の患者さんを...
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⚫最終章Ⅱ ①花に埋もれる

⚫最終章Ⅱ   ①花に埋もれる 8月11日 お棺と決めた箱に、 パールピンクの美しい和紙を貼った。 中に大吉愛用のベッドを入れて、 大吉を横たえた。 ありったけの氷。 ありったけの保冷剤。 痛々しいまでの小さな なきがら。 保冷剤はさぞ冷た...
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⚫最終章 ⑪永の訣れ

⚫最終章  ⑪永の訣れ 8月10日 ・朝6時 トイレの中でうずくまっていた。 トイレに起きて、そのまま動けなくなったようだ。 ・午後3時頃 グエグエとうめくように苦しむ。 そっとさする。 それだけしかできない。 ・午後6時頃 浅く早い呼吸。...
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⚫最終章 ⑩満身創痍

⚫最終章  ⑩満身創痍 体重はほぼ半分の4・2㎏。 昨日までは、耳のマッサージをすると、 気もちよさそうにしていたのに、 今日はいやがるそぶり。 よく見ると、左耳の後ろ側が黒っぽい。 大吉は、ケンカ大好きのやんちゃ猫には似合わず、 耳の後ろ...